書字を支える3つの領域
井川(2021)では、これまでに行われて研究から、書字運動が以下3つの領域からなると述べている。
- なぞり書き
- 模写
- 想起による書字
3つの領域において必要とされる技能も異なる。
この3領域に照らし合わせることで、字を書くことに苦戦している子どもが、どこでつまずいているのかを知ることができる。
また、そのつまずきを支援するツールも井川(2021)では紹介されている。
ここでは3つの領域で必要とされる技能とあわせて、支援ツールも紹介する。
なぞり書き
なぞり書きで必要とされる技能の一部が以下の3つである。
- 姿勢を安定させる力
- 手指などを操作する力
- 各感覚機関から得られた情報を適切に処理する力
まず、姿勢を安定させておくことが難しい場合、一定時間同じ姿勢をキープすることが難しく、机に突っぷしたり離席したりすることにつながる。
また、お手本の字をなぞるには、指や手のひら、手首などをコントロールして鉛筆を操作することが求められ、どこかに力が入りすぎたり、逆に力が抜けすぎたりするとなぞり書きが難しくなる。
さらに、字を書く際、私たちは無意識に様々な感覚情報を処理している。
視覚から文字の形を把握し、触覚で鉛筆の先が紙に当たっていることを感じる、さらに、固有受容感覚を通して筋肉や関節の動きを感じとる。
上記の感覚を適切に処理することが難しい場合、筆圧が強くなりすぎて鉛筆が折れたり、なぞり線からはみ出して書いてしまったりする。
なぞり書きの支援ツール
- 姿勢(体幹)を安定させる力を補助、または高める。
- 手指などを操作する力を補助、または高める。
- 各感覚器官から得られた情報を適切に処理する力を補助する。
模写
模写で必要とされる技能の一部が以下の2つである。
- 線や形を捉える力
- 空間を把握する力
例えば「あ」という字は、三本の線が組み合わさってできている。
各線がどのように交差しているのか、またどの様な形をしてるかを捉えられる必要がある。
さらに、模写では空白のマスのどこから書き始め、どれだけのスペースを活用し、どこで書き終えるのかをイメージしながら書くことが求められる。
線や形を捉えることや空間の把握が難しい時、字の一部分が大きくなったり小さくなったりして全体のバランスが崩れてしまう。
模写の支援ツール
- 線や形を捉える力、空間を把握する力を補助するツール。
想起による書字
想起による書字に必要とされる技能の一部が以下の2つである。
- 文字のイメージを記憶する力
- 各感覚器官を統合して頭の中の文字を書き出す力
これら2つの技能は相互に影響し合っている。
文字のイメージはその字を見たり、書いたりする中で形成されるからだ。
つまり、各感覚情報を適切に取り入れることが難しい時、字を記憶に留めることも難しくなる。
また、文字を記憶に留めておくには、文字という記号を具体的なイメージと関連づけることが必要となる。
例えば、「本」という文字を見て実際の本をイメージしたり、「本を読む」という動作をイメージすることで記憶に定着する。
つまり、抽象的な文字をより具体的な出来事と関連付けることを主体的に行う必要がある。
想起による書字の支援ツール
- 文字のイメージを記憶する力を補助、または高める。
以上、字を書くのに苦戦する要因を、なぞり書き、模写、想起による書字という3つの領域から見てきた。
書字に必要とされる技能はここであげたものの他にも複数あり、それらが影響を与え合っている。
全ての子どもにもあった万能の支援方法は存在せず、目の前の子どもの状態をよく観察し、その子に合った方法を探すことが重要である。
参考・引用文献:井川典克(2021)みんなでつなぐ読み書き支援プログラム フローチャートで分析、子どもに応じたオーダーメイドの支援,クリエイツかもがわ.
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