2つの観点から診断される知的障害
知的障害とは、『知的障害定義、分類、および支援体系第11版』によると、「知的機能と適応行動の双方の明らかな制約によって特徴づけられる能力障害」と定義される。
知的機能とは、推論したり計画したり、問題を解決したりする能力のことで、WISCやKABCなどの知能検査によって評価される。
適応行動とは、日常生活を送る上で必要とされるスキルの集合で、コミュニケーションスキルや、日常生活スキル、運動スキルなどがあり、VinelandーⅡ適応行動尺度やS-M社会生活能力検査などによって評価される。
つまり、知的障害は、単なる知的機能の遅れから評価されるのではなく、知的機能と適応行動の二つの観点から評価される。
知的能力と適応行動のズレ
知的能力は低く評価されるほど、行動上の問題(不適応行動)は起こりやすくなる。
一方で、知的能力が高く評価されたとしても、その能力を十分に発揮できなければ行動上の問題が起こることがある。
この十分に能力を発揮できない背景には、実行機能の問題が関与している可能性がある。
実行機能
実行機能とは、問題解決や目標達成を効率よく行うために、思考・行動・情動を意識的に制御する高次脳機能である(Ardila,2008)。
実行機能は計画的に行動したり、感情をコントロールしながら活動に参加したりする時、重要な働きをする。
つまり、私たちが日常生活において勉強をしたり、料理をしたり、会話したりする時に活躍しているのが実行機能である。
この実行機能に困難さがある時、行動上の問題も起こりやすくなる。
複数の研究によって、実行機能はトレーニングによって高めたり、支援によって補ったりすることが可能であることが報告されている。
実行機能の支援
実行機能の支援アプローチは以下の4つがあげられる(本郷,2018)。
- 目標設定
- 環境レベルでの支援
- 実行機能の弱さを補うスキル獲得
- スキル獲得の動機づけを高める
目標設定
目標設定において行動上の問題を特定し「〇〇しない」というかたちで、それを減らすという目標を設定してしまいがちである。
望ましくない行動を減らすという目標は、結果的にその望ましくない行動に注目することになり、当事者はもちろん支援者にとっても心理的負荷が大きい。
そこで、望ましくない行動に替わる、より適応的な行動に焦点を当てその行動を増やす目標を設定することが望ましい。
環境レベルでの支援
環境レベルでの支援はその人の状態にあった支援である必要がある。
支援は少な過ぎても、多過ぎても新たな問題につながることが予想される。
そのため、その人の状態を先に挙げたようなWISCやVinlandなどの検査を実施することで適切に把握することが重要となる。
また、支援のバリエーションとして、自閉症の人々の自立を支援するTEACCHプログラムの考え方が参考になる(TEACCH解説動画はこちら)。
実行機能の弱さを補うスキル獲得
実行機能のどこに弱さがあるかを把握し、それを補うスキルの獲得を目指す。
例えば、ワーキングメモリに課題がある時、口頭での説明だけでは目的を達成することが難しくなる。
そこで、手順表を用意し、その指示に沿って目的を達成できるスキルの獲得を目指すなどが考えられる。
スキル獲得の動機づけを高める
新しいスキルの獲得は、それ自体がその人にとって大きな負担になることが予想される。
そこで、そのスキルを獲得するための動機づけを高めることも重要である。
例えば先の例において、手順表にその人が好きなキャラクターのイラストを載せるだけで、その手順表を使ってみようという気持ちになるかもしれない。
また、実際に手順表に基づいて何かを達成したという成功体験を積むということも重要である。
むすび
まず、知的障害は単なる知的機能の遅れから生じているわけではないということを抑える必要がある。
そして、その人本来の力が発揮されるには、その人にあった支援や環境調整が必要となる。
そのためには、その人の状態を様々な観点から把握することが重要である。
参考・引用文献:本郷一夫(2018)シリーズ支援のための発達心理学 自己制御の発達と支援,金子書房.
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