ワーキングメモリが引き起こす問題
小学校の授業場面で、板書をノートに写すため、黒板→ノート→黒板→ノートと必死に頭を動かす子どもがいる。
また、教師の「前回は登場人物の心情を読み取りました。今日は教科書35ページを開いて、2段落目から読んでいきます。」という指示の後、教科書の何ページを開いたらよいかわからない子どもがいる。
上記のような場面で苦戦する子どもは、ワーキングメモリに偏りがあることが予想される。
ワーキングメモリとは
ワーキングメモリとは“情報を一時的に覚えておきながら、目的に合わせて取り出し、考える働き”があり、「脳の黒板」と言われる(湯澤,2020,P24)。
例えば27+16を暗算でする時、以下の作業を頭の中で行う。
- 7+6=13
- 13の10を繰り上げる
- 20+10+10=40
- 40+3=3
このように暗算をするには、繰り上がりの足し算の方法を思い出すことから始まり、数字を頭の中で操作しつつ、必要な情報を操作して、不必要な情報は一時的に置いておくなどの作業が求められる。
このようにワーキングメモリとは、その名の通り「目的を達成するため記憶を働かせる」ことをさす。
得意・不得意につながるワーキングメモリの2領域
ワーキングメモリは大きく「視空間領域」と「言語領域」の2領域がある。
視空間領域
視空間領域は、形や位置などの視覚を通して得られる情報を短期的に覚えたり、それらの情報を操作したりする領域である。
冒頭で挙げた板書をノートに写す際、何度も黒板を見る子どもは、黒板に書いてある情報を映像として記憶に留めることが苦手であることが想定され、ワーキングメモリの視空間領域を使用することに困難さを抱えている可能性がある。
言語領域
言語領域は、言葉や数などの聴覚を通して得られる情報を短期的に覚えたり、それらの情報を操作したりする領域である。
冒頭で挙げた教師の口頭での指示に沿って行動することが難しい子どものは、言葉や文字に関する情報を記憶に留めることが苦手であることが想定され、ワーキングメモリの言語領域を使用することに困難さがある可能性がある。
得意・不得意を見つける観点
視空間領域に困難を抱えている際に生じる問題は以下の通りである。
- 板書に時間がかかる。
- 字の模写が苦手である。
- 位をそろえる等、筆算を書くのが苦手である。
- 積み木(ブロック)を、お手本通りに作るのが難しい。
- 絵を描くのが苦手、または避ける。
言語領域に困難を抱えている際に生じる問題は以下の通りである。
- 言葉や単語を聞き間違えて覚えている。
- 会話が続きにくく、断片的である。
- 文を読んだり、書いたりするのが苦手である。
- 九九を覚えるのに苦戦する。
ここであげた観点によって、子どもの不得意を把握することができる。
あえて不得意な領域に注目したのは、不得意な領域を伸ばすためではなく、支援ツールを活用したり配慮のある関わりをしたりする中で、得意な領域を伸ばすことに重点をおくことが重要であると考えるからだ。
不得意なことは失敗経験につながりやすい。
失敗経験はネガティブなイメージを形成する。
結果、勉強嫌いや新しいことに挑戦することをためらうようになってしまう。
そうならないよう、子どもが本来の力を発揮できる環境を用意し、たくさんの成功体験を積むころができるよう応援するのが、我々教育に携わる者の役目である。
参考・引用文献:湯澤正道・湯澤美紀(2020)ワーキングメモリを生かす効果的な学習支援 学習困難な子どもの指導方法がわかる!,株式会社学研プラス.
コメント