「学習障害」を、ひとくくりにしてはいけない
昨今、「学習障害」という言葉をとても多く聞くようになった。
一方で、「学習障害」と診断される子どもは、その特性によって様々であり苦戦する場面も異なってくる。
それは、「学習障害」が「聞く、話す、読む、書く、計算する、推論する」の中の特定の領域の習得の困難さを抱える(文部省,1999)、とされることからも窺える。
「学習障害」がある子どもは、その子にあっていない指導法で学習しても効果をあげる事は難しく、結果的に勉強嫌いになってしまう。
つまり、「学習障害」というくくりでアプローチするのではなく、目の前の子どもはどこにできにくさを抱えているのか、アセスメントする視点が必要といえる。
できにくさをもたらす要因を特定する
学習において欠かせないことは、読み書きである。
読み書きは単独の機能ではなく、記憶や視覚、聴覚など様々な機能に支えられて獲得される。
ここでは、それらの機能の内、以下のものを紹介する。
- 音韻意識
- 視覚認知機能
- ワーキングメモリ
音韻意識
音韻意識とは、語の音の構造や、語を構成する個々の構成音についての知識、そして構成音を操作できる能力である(原,2001)。
例えば「桜」という言葉があった時、この語は「サ・ク・ラ」という3つの音で構成されていることや、真ん中の音は「ク」であることなどに気づく力である。
この領域に困難さがある時、音の構造把握や、構成音の分解が難しくなる。
結果、単語を反対から読む逆唱が難しかったり、聞き間違いが多かったりする。
視覚認知機能
視覚認知機能とは、絵や文字、図形などの視覚情報を取り入れたり、取り入れた情報を操作したりする能力である。
例えば「細」という漢字を見た時、どこで線が交わっているか、どのようなパーツから構成されているかなどを認識する力である。
この領域に困難さがある時、字の書き間違いや、アンバランスさ(例であげた「細」だと、「糸」を大きく書いてしまい「田」がマスからはみ出るなど)につながる。
また、工作活動、折り紙、理科の観察などで失敗経験を積みやすくなる。
ワーキングメモリ
ワーキングメモリとは、頭の中に取り入れた情報を、一時的に保持しながら操作する記憶のシステムである。
例えば、7+8の様な繰り上がりのある足し算を暗算する際に、7を10にするために8から3をもってくる。8から3をもってくると残りは5。だから答えは15など頭の中だけで情報を操作する力である。
この領域に困難さがあると、黒板の情報をノートに書き写すのに苦戦したり、口頭での指示をすぐに忘れてしまったり、読解において文章の内容を保持しながら問題に答えるのが難しかったりする。
以上見てきた3つの機能からも、「学習障害」とひとくくりにして子どもと関わることの危うさがわかる。
私たちに求められるのは、困難さの原因が多岐にわたり、さらにそれらが複雑に関連しあうことで子どもの出来にくさにつながっている、ということを念頭におきながら子どもと関わることである。
勉強嫌い、学校嫌いの子どもを生み出さないためにも、子ども一人一人の特性を見極める力が、教育に携わる者には必須であると考える。
参考文献:北洋輔・平田正吾(2019)発達障害の心理学ー特別支援教育を支えるエビデンス,福村出版株式会社.
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