認知処理パターン
人にはその人が得意とする認知処理パターン(情報の取り入れ方)がある。
以下の質問に答えていただきたい。
- 時計はデジタル派?アナログ派?
- 目的地までのナビで頼りにするのは音声?地図?
- 料理の解説は本?動画?
- 海外の映画を見る時、字幕派?吹き替え派?
前者を多く選択した人は継次処理(情報を時間的な順序によって処理する様式)を得意とする人、後者を多く選択した人は、同時処理(複数の情報の関係性に着目し全体的に処理する様式)を得意とする人である可能性が高い(継次処理/同時処理について詳しくはこちら)。
私たちは、これらの認知処理を場面に応じて使い分けながら生活している。
一方で、発達障がいなどの特性から、どちらか一方の認知処理様式が極端に低かったり、高かったりすることがある。
この時、苦手な認知処理様式を用いて情報を得ることのハードルは極端に上がる。
この認知処理様式が学習の習得度に影響を与えることは必然であり、何度学習しても身につかないのは、その子の能力に問題があるのではなく、その子に合っていない指導方法に問題があるかもしれない。
ここでは、算数をテーマにそれぞれの認知処理様式にあった学習方法について述べる。
算数を学ぶ流れ
算数は「数の概念の獲得→計算→文章題」という流れで学習が進んでいく。
これに合わせて単位や図形、グラフなどを合わせて学習する。
以下、算数の素地となる数の概念を習得するための学習方法である。
数の概念を学ぶ
数の概念、つまり数の意味や表し方は、「数詞(音声の数)⇄数字(文字の数)⇄具体物」の3つの関係を成立させる必要がある。
これらの関係を成立させる方法は継次処理と同時処理とでは全く逆のアプローチの仕方になる。
継次処理が得意な子の場合
継次処理が得意な子は「数詞→数字→具体物」という流れで学習を進めるのが効果的である。
具体的には、まず数の歌などを用いて耳で1から10までを聴き、実際に歌える(数を言える)ことを目標とする。
次に数字カードなどを使い、その歌の歌詞に合わせて数字を選択できることを目標とする(歌が止まったところの数字カードを取るなどのカルタ遊びもおすすめである。)。
最後に、夕飯のおかずの数や好きなオモチャの数など、実際の生活の中で数を意識して使えることを目標にする。
継次処理が得意な子に対する指導は以下の条件がそろうことが望ましい。
- 段階的に
- 部分から全体へ
- 順序性を重視
- 聴覚的・言語的手がかりを使用
- 時間的・分析的 (藤田,2005を基にリスト化)
同時処理が得意な子の場合
同時処理が得意な子の学習の流れは、「具体物→数字→数詞」と継次処理とは逆の流れになる。
具体的には、まずテレビは1、お箸は2、信号は3、など生活の中で数に注目できることを目標とする(その子が好きなものを使うとより記憶に残りやすい。)。
この時、数字カードなどを用いてその数に対応した数字を合わせて見せることで、数字とそれが表す数とが結びつきやすくなる(数の絵本などを使うと絵(具体物)と数字と数詞が一致しやすい)。
そして、「テレビは?」に対して「1」や「信号は?」に対して「3」など数を声に出せることを目標とする。
同時処理が得意な子に対する指導は以下の条件がそろうことが望ましい。
- 全体をふまえる
- 全体から部分へ
- 関連性を重視
- 視覚的・運動的手がかりを使用
- 空間的・統合的な関係をもとに (藤田,2005を基にリスト化)
算数の最初のステップである数の概念の獲得の段階で、継次処理と同時処理の学び方の間にはこれだけの違いがある。
その子の状態を適切に把握することで、その子にあった学習方法が見えてくる。
教育者が、自分がこれまでに学んできた方法がベストであるという固定観念を捨てることが、教育のはじめの一歩と言える。
参考・引用文献:藤田和弘(監修)熊谷恵子・青山真二(編著)(2005),小学校個別指導用 長所活用方指導で子どもが変わるPart2,図書文化社.
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