ADHDと注意力の問題
ADHDは「注意欠如・多動症」などと訳される。
「注意欠如」という言葉からもわかるように、「注意」に様々な困難さが生じることがある。
しかし、近年の研究から、ADHDの子どもは注意が「欠如」しているのではなく、注意に関する一部の機能に弱さがある、または特定の環境において注意に関する問題が生じる、ということがわかってきている。
注意のコントロール
「不必要な刺激」の中から、「必要な刺激」を見つけ出す実験からADHDのある子どもが、注意を向けにくい時と、向けやすい時がわかっている。
まず、当然のことながら、目立たない「必要な刺激」を、「不必要な刺激」の中から探す際には注意をコントロールして必要な刺激を見つけることは、定型発達の子どもと比較して困難である。
一方で、「必要な刺激」が目立つ時は、「不必要な刺激」の数に関わらず、すばやく見つけ出すことができるのだ。
不必要な刺激は避けるべき?
このように注意のコントロールが難しい、ADHDの子どもの学習環境において、不必要な刺激は無くした方が良いということはよく言われる。
一方で、「不必要な刺激」があった方が学習が促進されることもあるようだ。
ホワイトノイズ(ラジオの雑音)が流れている環境で、ADHDのある子どもと定型発達の子どもの学習成績を比較した。
その結果、定型発達の子どもの成績が変化しないか悪くなってしまうのに対し、ADHDのある子どもは成績が良くなることがあった(Soderlund et al,2007)。
また、複数の研究から、ADHDのある子どもが学習している背景で音楽を流すことが必ずしも妨害にならないということもわかっている。
これは、刺激が少ない環境においては、不意に出現する「不必要な刺激」は注意を引くものとなるが、一定の雑音が流れていることで「不必要な刺激」が目立ちにくくなるからではないかと考えられている。
ADHDがある子の注意を引きつけるポイント
上記で示した例も含めて、ADHDのある子の注意を引きつけるポイントは以下の通りである。
- 前もって合図をする
- 周囲のものと比較して目立たせる
- 注意を向けるものを限定する
- 不必要な刺激は減らす
- 一方で不必要な刺激の中には利用できるものもある
もちろんこれらのポイントは子どもによって様々で、その子にあった方法や環境を用意することが望ましい。
「ADHDがあるから…」という理由であきらめるのではなく、その子にあった学習手段やを、適切なアセスメントのもと、大人と子どもが一緒に探していくということが重要である。
参考文献:北洋輔・平田正吾(2019)発達障害の心理学ー特別支援教育を支えるエビデンス,福村出版株式会社.
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