二つの認知処理スタイル
まず認知とは、視覚・聴覚・触覚などの各感覚器官からインプットされた情報を、脳が知覚・記憶・思考などの処理をする過程のことをさす(藤田,2020)。
つまり、外の情報を感覚器官を通してインプットし、脳でその情報を処理する一連の流れが認知である。
この認知には、継次処理スタイルと同時処理スタイルの二つの処理スタイルがある。
継次処理スタイル
継次処理スタイルとは一つ一つの情報を時間的な順序で処理していくスタイルである。
継次処理スタイルが得意な人は以下の項目が当てはまりやすい。
- 時計はデジタル派
- スケジュールは時系列で管理
- ナビは音声や文字がわかりやすい
同時処理スタイル
同時処理スタイルとは、複数の情報をその関連性に着目して全体的に処理するスタイルである。
同時処理スタイルが得意な人は以下の項目に当てはまりやすい。
- 時計はアナログ派
- スケジュールはカテゴリで管理
- ナビは地図がわかりやすい
私たちは得意な認知処理スタイルを多く用いたり、状況に合わせて使い分けたりしている。
一方で、発達障害や知的障害によってこれらの処理スタイルに遅れや偏りが生じることがある。
つまり、その子にあった処理スタイルで学習支援や指導がなされることが学習効果を向上させる上で重要であるといえる。
子どもが得意な認知処理スタイルを知る
得意、不得意は子どもの普段の生活の様子を観察することで明らかにすることができる。
また、以下の項目はチェックリスト(藤田,2020)の一部を抜粋したもので、Yes/Noで答えることでその子またはその人が強い処理スタイル、弱い処理スタイルを予想することができる。
- 説明や手順をもとに作業ができる
- 文章の意味を捉えるのに苦戦する
- 物事の似ているところに気づきやすい
- 漢字の筆順を覚えるのに苦戦する
⒈がYesの時は継次処理が強く、⒋がYesの時は継次処理が弱いことが予想される。
⒉がYesの時は同時処理は弱く、⒊がYesの時は同時処理が強いことが予想される。
藤田(2020)では、教師、保護者、子ども、それぞれの観点から得意・不得意を調べるためのチェックリストがあり、詳しく子どもの状態を把握するにあたって参考になる。
得意なスタイルを活かした指導・支援【5原則】
継次処理スタイルと同時処理スタイル、どちらが得意かによって効果的な学び方が異なってくる。
得意なスタイルを活かすための5原則(藤田,2020)を以下にあげる。
継次処理スタイルを活かした指導・支援
- 段階的に示す
- 部分から全体へ
- 順序性をもたせる
- 聴覚的・言語的手がかりの重視
- 時間的・分析的要因の重視
漢字学習を例に、5原則を踏まえた指導・支援を考えると次のようなものが考えられる。
- 部分と部分を組み合わせる課題の作成(例:山+石=岩)。
- 徐々に画数の多い漢字を学習する(例:川→木→田)。
- 声に出して書く(例:川は「たて、はらい、たて、たて」)。
- 筆順アプリの活用することで一画一画を可視化する。
同時処理スタイルを活かした指導・支援
- 全体を示す
- 全体から部分へ
- 関連性を踏まえて
- 視覚的・運動的手がかりの重視
- 空間的・統合的要因の重視
漢字学習を例に5原則を踏まえた指導・支援を考えると次のようなことがあげられる。
- まず、その日に学習する漢字を示す(例:木、林、森、山、石、岩)。
- 提示された漢字の部分に注目し共通点を見つける(例:木、林、森には“木”が使われている)。
- 具体物を使って漢字を表す(例:木の棒を使って“木”を作る)。
- 漢字カードを活用することで、漢字、絵(漢字の意味)、読みを視覚的にマッチングする。
結び
子どもの学習効果を高めるためにも、その子にあった認知処理スタイルで指導・支援をすることが重要である。
一方で、学校現場など集団を対象にした指導は、どうしても口頭での指示(継次処理スタイル)に偏りがちである。
それは子どもの多様化、日々の授業の立案など、子ども一人一人にあった指導・支援を細かく考えることが難しいことから生じている。
その中でも、子どもの教育に携わる私たちは、自身の指導・支援がどちらかのスタイルに偏っていないかを振り返り、二つの処理スタイルを考慮した指導・支援を実行することが求められる。
大人が自分に合った、または使いやすい処理スタイルを子どもに強要するのではなく、子どもが学びやすい処理スタイルで学習を進めることで、その子本来の力を伸ばすことが重要である。
参考・引用文献:藤田和弘(2020)「継次処理」と「同時処理」学び方の2つのタイプ,図書文化社.
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