我々は文字を書いたり読んだりすることを、普段何気なく行っている。
しかし、発達障害による認知の偏りなどの問題が生じると、とても難しい活動になる。
それは、子どもの学習へのモチベーションを下げ、自己肯定感の低下にも繋がる危険性がある。
読み書きにおいて苦戦する場面を明らかにし、それぞれに効果的な指導・支援を実施することが重要である。
ここからは小池・雲井・窪島(2020)をもとに、以下4つの苦戦する場面とそれらに対する指導・支援をみていく。
- 文字の形をとらえるのが難しい
- 似ている音の区別が難しい
- 漢字を読むことが難しい
- 書字が難しい
文字の形をとらえるのが難しい
文字の形をとらえるのが難しい時、「里」と「黒」の様な似た字を混同して覚えたり、形を正確に模写することが難しかったりする。
この文字の形をとらえることに対する指導・支援は以下の2つである。
字の細部に注目させ、形の位置関係の理解を促す指導・支援
文字の形をとらえるには、その文字の特徴に気付く必要がある。
また、文字をパーツに分けるなどして、それぞれの位置関係をとらえることも効果的である。
具体的には、漢字の誤りを訂正する「漢字間違い探し」や、部首と旁などを組み合わせる「漢字パズル」があげられる。
形の特徴を言語化する指導・支援
これは、耳から情報を取り入れることが得意だったり、継次処理能力が高かったりする子に有効な手段である。
「黒」と言う字であれば、「黒は日、土、点四つ」と声に出して書いて練習する。
似ている音の区別が難しい
似ている音の区別が難しいと、「ラクダ」を「ダクダ」と言ったり、「ぎょうざ」を「ぎゃうざ」と書いたりする。
似ている音の区別の指導・支援は以下の2つである。
ひらがな・カタカナを区別する指導・支援
音の区別が難しいとき、耳から情報を取り入れることに課題を抱えていることが想定される。
そこで、字の形と、その字を使った言葉、その発声をつなぎ合わせる指導・支援が有効である。
具体的には、「ラはラクダのラ」と言う様に文字、その文字に対応する絵と言葉が書かれた絵カードの活用や、50音表を身近な場所(お風呂や台所の机上)に掲示するなどがあげられる。
音節抽出と分解の指導・支援
音と音の区別をするには、言葉を文字に分解する力が必要となる。
言葉の中で使われている文字に注目させるためには、「さかさ読み」や「しりとり」などが用いられる。
また、「パン」を読む時は「パ」で手を叩き、撥音である「ン」は握り拳の様に、文字を動作化することも効果的である。
漢字を読むことが難しい
漢字は一字に対し割り当てられいる音が多かったり、複数の読みがあったりすることで子どもたちが躓きやすい課題である。
特に、「右」と「左」のように同じカテゴリで形も似ている時、どちらがどちらの読みか混同する。
漢字の読みに対する指導・支援は以下の通りである。
漢字、イメージ、読みをつなげる指導・支援
これは、「ひらがな・カタカナを区別する指導」と同様で、文字の形とその意味、イメージ、読みを関連付ける指導である。
やはり絵カードは効果的で、漢字とイメージをいかに関連付けるかが重要となる。
また、漢字を具体物で表すことでその字をイメージしやすくなる(例:石を並べて「石」を表す)。
文の中で漢字を使う指導・支援
漢字は実際に活用することでその習得が早まる。
一方で、漢字を使って作文を書くとなると、課題のハードルが高くなってしまう。
そこで、「さくらの□がさく。」□に入る漢字は何かを問うような問題が効果的である。
また、一つの漢字から、それに関する言葉を連想させるマインドマップもその漢字の定着には有効である。
マインドマップを用いて、漢字クイズを作り、子ども間で出題しあうなどの活動を取り入れることで、エピソード記憶になりさらなる定着が期待できる。
書字が難しい
これまでにあげた苦戦する場面はどれも、情報をインプットするという点で共通していた。
一方で、書字は情報をアウトプットする作業である。
漢字を読むことができるのに、いざ書くとなると、マスからはみ出てしまったり、一画多かったり少なかったりする。
読むことができるのに、どうして書けないのかと他者はもちろんその子自身も辛い経験をする。
書字の指導・支援としては以下のようなことがあげられる。
色の手がかりを用いた指導・支援
ノートをカラーマスにすることで、空間のどこに何を書くのかが視覚的に理解しやすくなる。
また、筆順が色で書き分けてあることで、線と線の組み合わせがわかりやすくなる。
この支援は視覚的に情報をとらえることが得意な子に特に有効である。
順序性を意識した指導・支援
「形の特徴を言語化する指導」でもあげたように、一画一画を言葉にする方法である。
また、筆順が示される漢字アプリなども併用すると、書き方を確認することができる。
多感覚を活用した指導・支援
書字はノートのマスの様な限定された空間に、鉛筆を使いこなして文字を書くことが要求される。
手指の力のコントロールが難しい時、この作業自体が困難な活動となる。
そこで、まずは空書きのように、空間を広く使い、腕を大きく動かして文字を書くことで字の全体像と共に筆順を確認することができる。
また、紙やすりを下敷きに使うことで、一画一画を感覚的にキャッチしやすくなる。
ストレスへの配慮
もちろん、このストレスへの配慮は、書字に限らず他の場面にも当てはまる。
しかし、先にも述べた通り、書字は情報をアウトプットする作業である。
頭の中ではわかっているのに、思うように字を書くことができないと言うことのストレスは計り知れない。
適切なアセスメントのもと、その子に合った情報の表出方法を提案していくことも重要であると考える。
参考・引用文献:小池敏英・雲井未歓・窪島務(2020)LD児のためのひらがな・漢字支援 個別支援に生かす書字教材,あいり出版.
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