曖昧な目標がもたらす弊害
学習効果をより高めるため、その子にあった目標を設定することはとても重要なことである。
また、設定された目標を達成するためになされる指導・支援も子どもにあったものである必要がある。
一方で、設定された目標が曖昧な表現であったり、どう考えても目の前の子どもに合っていない難易度であったりすることはよくある。
さらに、目標設定後の指導・支援も問題集や指導書に書いてあることをそのまま実行したり、目標を設定したことに満足し何の介入もせず、後は子どもの責任としてしまったりということもある。
そういった目標や指導・支援のもと実施される教育活動において、子どもが何かを学ぶということは難しい。
結果的に失敗経験を子どもに数多くさせることになり、何に対しても消極的な子になってしまう。
適切な目標を設定し、それを達成させるための指導・支援をデザインできるということは、教育に携わる者にとって必須のスキルと言える。
ここでは適切な目標設定の方法と指導・支援の立案について解説する。
適切な目標を設定する【課題分析】
適切な目標を設定するための前提として、子どもに教えたいことを教育者が明確に持つ必要がある。
そのために応用行動分析(ABA:Applied Behavior Analysis)の「課題分析」という方法が役に立つ。
「課題分析」とは、ある行動を構成する要素ごとに細かく分けることをさす。
以下「自転車に乗る」ことを課題分析し架空の目標を設定し、その目標に対する指導・支援方法について考える。
「自転車に乗る」の課題分析
- 自転車にまたがる
- サドルに座り、両足を地面につける
- 片足をペダルに置く(ペダルの位置は時計で言う9時の位置)
- 3.の足でペダルを踏み込むと同時にもう片方の足もペダルに置く
- 進みたい方向に視線をむけ、ペダルを交互に踏む
このように「自転車に乗る」と言うことも課題分析をすると複数の要素で構成される動きであることがわかる。
このことが見えてくると、仮に「自転車に乗ることができる」という目標を設定したとして、この目標がいかに曖昧な表現であるかということがわかる。
課題分析の後、構成される要素の中で目の前の子どもが苦戦しているポイントをつきとめる。
ここでは、一般的に苦戦する可能性が高い5.から「進みたい方向に視線を向けて、交互にペタルを踏むことができる」という目標を設定し指導・支援を考える。
必要な指導・支援を立案する【スモールステップの原理】
スモールステップの原理とは、目標をさらに細分化することで目の前の子どもに必要とされるスキルを段階的に教えていくことをさす。
上記で設定した「進みたい方向に視線を向けて、交互にペダルを踏むことができる」という目標には以下のようなスモールステップを設定することができる。
自転車に乗れるようになるためのスモールステップ
- 自転車にまたがり、地面を交互に蹴って移動することができる。
- 1.において両足が地面についていない時間を3秒以上保つことができる。
- 後輪を浮かせた状態でペダルを交互に踏むことができる。
ここでのステップは子どもによって変化する。
視線を進みたい方向に向けることが難しい場合は、視線に関するステップを用意する必要があるだろう。
指導・支援の具体例
このスモールステップを考えることができたら、次にこれらのスキルをどのように指導・支援するかである。
1.を達成するには、地面を蹴って移動しやすいサドルの高さに調節するような支援が必要である。
2.を達成するには、車輪が転がりやすい場所を選ぶ必要がり、ヘルメットの装着など転倒に対する恐怖心を和らげる支援が必要になるかもしれない。
同時に、安全なこけ方に関する指導が必要になるかもしれない。
また、移動するコースを用意したり、視線を向けるターゲットを用意したりすることで上達が早くなることが予想される。
3.を達成するには、後輪が浮いた状態を用意する必要がある。
また、大人がブレーキをかけた状態で漕ぐことで、抵抗を足に感じながらペダルを踏む指導も効果的だろう。
ここまでみてきたように「自転車に乗る」という行動は一つの行動のように見えて、実は複数の要素で構成された行動であるということに気づいていただけたかと思う。
目標を設定する際には、課題分析とスモールステップを活用して、子どもの成功体験を引き出すことが教育者の技量と言える。
参考文献:島宗理(2020)インストラクショナルデザインー教師のためのルールブックー,産業図書株式会社.
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